週刊朝日(平成30年10月5日号)に「ボケたら預金が凍結される」という記事が掲載されました。
少々過激な見出しですが、認知症を発症し意思能力が不十分になると預金の払戻し、不動産の売買、などが制限される場合の有ることを言っています。
現在すでに、意思無能力者のした法律行為は無効として運用されていますが、改正民法第3条の2において、「法律行為の当事者が、意思表示をしたときに意思能力を有しなかったときは、その法律行為*は、無効とする」と明文化されました。
厳密には、意思能力を有しない者とは、成年被後見人などの制限行為能力者となった場合のことですが、実際の取引では、成年被後見人となっていなくても認知症等により、取引の相手方がその人の意思能力に疑問を感じた場合、その申し込みに対して、取引が無効となるリスクを懸念して応じなくなるという形で制限されることになると思われます。
例えば、「ご本人が来店して手続きをして頂かないと預金の払戻しはできません。来店が難しい場合は、家庭裁判所で後見人を選任して貰ってください。」、「ご主人名義のご自宅は、ご主人に成年後見人を付けて頂かないと売却の手続きをお受けできません。」という形で、断られることになります。
そのようなことになると大変です。
老後のためと貯蓄に励んだ預金が、使えなくなる、自宅を売却して老人ホームに入居するという目算も外れてしまうなどの問題が発生します。
それなら、成年後見人を付ければ、事が済むのでしょうか?
その1で述べたように、成年後見制度は、はじめから問題を抱えている制度です。
預金の凍結は、後見人によって解けますが、本人が亡くなるまで後見人が本人の資産を握ることになります。
自宅の売却は、家裁の許可を得て後見人により可能となりますが、
不動産に関係ない預金や年金も、本人が亡くなるまで後見人が管理することになります。しかも毎月報酬を支払って。
管理されるということは、家族がお父さんのお金を使って生活するためには、後見人に頭を下げてお金を出してもらい続けることを意味します。
我が国では、限定後見、特定後見という仕組みはありません。
一つ頼むと、お金やその他のことも含めて、一生、後見人に管理され、毎月報酬を取られ続けることになります。
既に認知症有病者数は、600万人に迫ると推定されますが、成年後見人は約15万人、保佐人等その他を含めても全体で約21万人しか存在しません。要するにほどんど誰も後見人を頼まない実態があります。
頼まなくても、本人が訴訟をしたり、遺産分割協議に参加することになった場合、漏れなくついてきます。
そして、その後は頼みもしないのに、本人の資産を有償で一生管理され続けることになります。
不人気となるのは、当然です。
その制度を、我が国では、官民挙げて利用促進の大キャンペーンを展開中です。
我々はどう対処すればよいのか?どのようにして、後見人トラブルから我が身と家族を守ればよいのか?
次回以降に、明らかにして参ります。
*法律行為とは
「意思表示を要素とする法律要件で,意思表示の内容どおりの法律上の効果 (権利の変動) が生じるもの。法律行為には,単独行為 (遺言など) ,契約 (売買など) のほか,有償行為,無償行為,債権行為,物権行為,有因行為,無因行為,生前行為,死後行為,要式行為,不要式行為などの区別がある。」出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
具体的には、預金を引き出す、不動産の売買をする、契約をする、遺言書を書く、贈与するなどをいいます。