2012年の段階で既に認知症有病者(軽度を合わせると)は800万人を超えて現在は1,000万人に迫っているのではないかと推定できますが、制度開始以来18年近く経った今日でも、後見人はすべてのカテゴリー(成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人)を合わせても21万人程度しか存在しません。なぜニーズがあっても利用されないのでしょうか?
成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下「促進法」という。)やそれに基づく成年後見制度利用促進基本計画(以下、「基本計画」という。)では、その原因の一つは担い手の不足であるとしています。おそらく担い手の数が不足しているという量的な問題だけでなく、だから十分なケアができないという質的な問題もそこから生じていると言いたいのだろうと想像しています。確かに弁護士は4万人程度、司法書士は2万4千人程度、社会福祉士は20万人程度しか居ません。しかも社会福祉士の皆さんは、身上監護の専門家ではありますが、財産管理を専門にする方々ではありません。そこは目をつむったとしても、今後1,000万人の認知症等有病者の後見人をこれら三分野の専門職後見人に託そうとすると不足していることは明らかです。特に主力となっている弁護士、司法書士の先生方は、本来の業務も多岐にわたり抱えておられる訳ですから、担い手が不足しているという主張もわかる気がします。
しかしこれは明らかにおかしいのです。後見開始審判の申立書には、後見人候補者を書く欄があり、みんな書いて出しているのです。つまり、希望する後見人候補者が初めから過不足なく存在しているのです。
ではなぜ不足というのか。その理由は、平成24年を境にして、家裁に選ばれる親族後見人数と専門職後見人数が逆転したことから読み取れます。前年の平成23年に最高裁が親族後見人の着服が多い状況【H22.6からの9か月間で着服金額18億3千万円、解任した親族後見人286人(後見人全体の0.14%)】を公表したことを受けて、後見人候補者欄に親族後見人を書いてもその通りは認められず、家裁は7割以上の確率で、被後見人にとってはアカの他人である専門職を後見人に選ぶようになったからです。親族後見人が不都合な人たちばかりであるはずがないのに、何が何でも親族を避けて通ろうとするから、後見人の担い手は不足しているなどという大騒ぎが起こっているのです。後見人の基本的要件を満たしていれば、素行や被後見人と紛争があるとか利益相反があるとかをチェックすれば、親族だけを目の敵にする必要などどこにもないのです。慣れない後見事務に関する研修や相談・サポート体制を充実(市町村に期待)すれば、むしろ親族ならではの安心感や親近感が被後見人にはあるはずです。確かに専門職後見人の着服等の不正の件数は少ないことは事実ですが、かりそめにも専門職にある人達ですから、余程のことがない限り、堂々と着服する人は少ないのは当然です。苦労して得た資格を棒に振ることとの損得勘定はできるはずですから。しかし、全く純白な先生方ばかりでないことは、基本計画や促進法で図らずも自白された形となっています。つまり、制度が普及しない反省として、被後見人の人格や自己決定権の尊重が不十分なこと、財産管理だけでなく身上監護も行うべきことなどが挙げられています。そのように法の趣旨を無視して、財産管理だけに熱心でその他にはあまり関心がない専門職後見人の姿が本当なら、専門職後見人は被後見人ではなく報酬の確保にのみ眼が向いているようにしか映りません。これでは、なるほど着服はしていないが、被後見人を搾取しているだけではないかという批判が出ても仕方ないかもしれません。もちろん真面目に身上監護をし、被後見人と定期的に面接等をしてその意思を尊重した運営に尽力されている専門職後見人も沢山いらっしゃることは、事実だと思いますが、そういう先生方ばかりであれば、促進法や基本計画を作ることも要らなかった筈ですし、そのような反省が出てくることもなかったのではないでしょうか。
つまり、専門職だからすべてOKでもないし、親族だから全てNOでもないわけです。要は、親族であれ専門職であれ、後見人の業務のチェックとサポートを確りやることが、肝要であり、そうすれば、後見人の担い手が不足するなどという事態は起こらないということになります。しかし今後1000万人にも上る後見人のチェックを円滑に行うためには、現在のような家裁による裁量的チェックでは物理的に無理があることもまた間違いのないところでしょう。さりとて家裁に代わって後見人一人一人に後見監督人を付けて監督させることは正しく屋上屋を重ねる愚をおかすことになるでしょう。そこで基本計画でもややあるべき姿は示されていますが、さらに進んで法を改正して、後見監督人制度を廃止し、各分野の専門家で構成され、調査権を持つ後見監督委員会(仮称)を各市町村に設け、1対1の裁量チェックではなくデータ解析による集合チェック(チェックポイントを数値化して報告させ、AIによって不正、不作為、不法行為の可能性の高い後見人を抽出して、抽出された後見人のみを後見監督委員会が調査するのであれば、マンパワーの調査件数が格段に少なくて済むだけではなく「一罰百戒」の効果もある詳細にして綿密な調査ができます。そして不正等の事実が明らかになれば、犯罪には処罰、それ以外には聴聞の上、家裁が適切に処分する)方式に変更するべきだと思います。少し詳しくご説明すると、後見人が行う後見監督委員会への報告は、数値データ化したもので行うものとします。被後見人との面談回数、収支計画との相違点、報酬・経費の基準値との比較割合、被後見人や親族の評定数値など食品衛生管理におけるHACCPのように、予想されるハザードに対するクリティカルコントロールポイントにおける数値をAIの活用で一次チェックし、不正・不作為・不法行為等の疑いのある抽出後見人を対象に対してマンパワーによる2次チェック調査を行うチェックミックスであれば、チェックの効率は格段に上がり、1000万人といえどもあるべき後見のチェックが可能となるのではないでしょうか。これによって後見監督が極めて合理化・省力化されるだけでなく、基準が具体的かつ明確に示されることにより不正、不作為、不法行為の予防効果も大きいものとなると思われます。家裁の裁量によるチェックでは、全国的均質性に乏しく、また予見可能性が低いので後見人にとって不安も多いのが現状ですから、集合チェック方式を導入することによる後見人の業務環境やメンタルの改善効果は大きいのではないかと思います。
次回は、後見人の報酬について考えてみたいと思います。