103万円の壁は引上げは「世紀の愚策」-問題の所在は、そこではない。給付型奨学金の大幅拡大で解決を-            

 高校無償化が自公維で合意をみた。よいことだと思う。そもそも資源のない真に小さな国が300年の鎖国の眠りから目覚め、アッという間に西洋に伍する国となったのも、先の大戦での壊滅的な敗戦を乗り越えられたのも、紛れもなく優れた先達、人材の活躍の賜物である。
 つまり我が国は、「人材立国」であり、そこへの投資を惜しんではならない。
それに引き換え、「103万円の壁」(手取りを増やそう政策)はどうだ。もちろん手取りが増えるのは、嬉しい。しかし財政赤字の国でやみくもに手取りを増やせ、負担を減らせという主張は、現実的ではない。事の発端である「学生がバイトを増やしたいが、103万円を越えると扶養を離れ、親の手取りが減るため103万円の壁を引き上げろ」とは、何か変ではないか。
  自民党の小野寺政調会長が、「なぜ学生が103万円まで働かなくてはならないのか」 「学生は将来のためにしっかり勉強してほしい。学業に専念できるような支援を国会で議論すべきだ」と発言し、現実が分かってないと非難が殺到し炎上した。
 小野寺発言は、極めて正論だと思う。人材立国である我が国においては、学生にバイト労働力としてより多くを期待するのではなく、学生時代という時間においては研鑽して(座学のみではなく、旅行も部活もその他諸々の人生経験・体験を含む)この国の将来を担う人材となってもらわねばならない。
 学資の多くをバイトに頼らなくてよいように、給付型奨学金の要件の緩和と増額こそ議論されるべきではないか?JASSO(日本学生支援機構)の学生への総貸付残高は約9.5兆円、うち約7.5兆円は有利子である。2004年は、それぞれ3.8兆円、2.3兆円であるからそれぞれ3倍程度に増加している。しかし年間の貸与金額は2013年の1兆933億円をピークに毎年減少し2022年は8477億円と23%も減っている。貸与人数も同様に133.9万人から113.2人へと15.5%減少となっている。大学生の数は、2022年約293万人と僅かながら増加し史上最高となっていることから、学生が貸与奨学金を借りなくなっていることがわかる。バイトに勤しむ学生が多く103万円の壁が低すぎると嘆く声が多くなっているのに、なぜ奨学金を借りないのか?答えは明確である。利付返済が社会人生活を圧迫するからである。平均して年間約75万円の貸与を受けているので、4年間で300万円の借金を抱えて奨学生達は社会に出ていく。現在は約1.5%の利子だが、これからは金利も上がる。返済が滞れば、リストに登録され、不良債務者となる。これでは結婚などしばらくできない、家も、子供も当面辛抱となる。「それなら奨学金など借りずにバイトで学費を稼ごう」となるではないか。給付型も増えてはいるが、約34万人年間1500億円余り、貸与型と比して人数は約3分の1、金額は約6分の1、平均貸与金額は約50万円だ。
 これを4倍にして今の奨学生のほぼ全員に給付しても6000億円で済む。
103万円の壁を国民党のプラン通りやれば、約8兆円財政に影響があるという、問題の所在を見違えるとなんとも大きな財政負担がでるだけでなく、学生をドンドン安価な労働者と変容させていく「世紀の愚策」であることがみえてきた。バイトも必要な社会勉強だ。奨学金制度を拡充した上で、学資の足りない学生も足りてる学生も103万円の壁内でやってもらったらちょうどよいのではないか?