注目の台湾の総統選挙は、中国と距離を置く民進党の頼氏が勝利した。今年はさらに、米大統領選、フランス、インド、ロシアなど世界中で20億人が投票する選挙の年となる。わが国も自民党総裁任期が9月に切れるため、解散総選挙も有り得る。ウクライナ戦争はいよいよ正念場、中東の情勢もより複雑化する見込み、そして中国、北朝鮮、ロシアの地政学的リスクもより顕在化の傾向だ。
国内も、足元の物価高、昇給の行方、政治の腐敗、災害の発生、感染症の蔓延など大見出しとなる心配事が山積みである。
さはさりながらこれら多方面にわたる大見出しについては、それぞれのご専門家にご心配頂くとして、ここは、地味ながらわが国経済を左右しかねない「ビジネスケアラー問題」に絞って、提言してみたい。
「ビジネスケアー」とは、働きながら介護をしている人を指す。
ビジネスケアラー問題の一部は、介護離職として表面化しているが、大部分は、氷山のように海面下にあり、経産省調べでは、巨大な損失(約9.2兆円)をわが国経済に及ぼしている。介護離職は年間10万人、6500億円の損失と試算されている (経産省) 。これをアブセンティーズム(欠席による損失)というが、個々人にとっては重大問題ではあるが、社会全体を揺るがすまでには至っていない。むしろ問題は、海面下の氷山である。これは、主には生産性の低下がもたらす損失で、プレゼンティーズム(出勤しているが発生する損失)という。
介護問題に対する政府の対応は、主として介護保険、育児介護休業法による休業休暇の取得である。
介護保険は活発に利用されている。2000年の発足以来、伸び続け2021年には利用者数は、3.4倍(507万人)となり、同じく介護費用は約4.3倍の15.3兆円となっている。利用者の負担額も3000円から2025年には7200円へと2.4倍、公的負担はそれを上回るペースで増え続けている。
これには、背景がある。
かつて社会学者E.アンデルセンは、日本は3世代同居が多く、その福祉レジームは、ドイツなど大陸型(大家族が面倒を見る)に近いと言った(「ポスト工業社会の社会的基盤」)。しかしわが国は70年代以降、核家族化し既に3世代同居は、ごく少数となった。しからばという訳で、政府は英・北欧の社会民主主義型福祉レジームを目指し介護保険制度をスタートさせたのである。
その心意気はよかった。そして狙い通り、家族から公的扶助へ介護は重心を移すことになったが、余りの需要大きさ故にその財政負担に耐えがたくなり、再び家族にボールを投げ返した。そのためのインフラ整備として育児介護休業法の創設がある。休みを取りやすくするから、「やっぱり家族で介護してね」政策への転換である。
ここにビジネスケアラー問題の原点がある。そしてその狭間に落ちた「ヤングケアラー問題」は、育児介護休業法の恩恵などない、より深刻な問題となっている。 (その二に続く)
新年の提言-ビジネスケアラー支援は、企業の社会的責任(CSR)から安全配慮義務へ-(その一)