後見開始審判チョッと気になるデータⅢ(恐ろしいデータ完結編)

前回、平成29年の名古屋高裁の決定で、この「鑑定飛ばし」が問題となり、後見開始審判が取り消され、津家裁四日市支部に差し戻されるという事件を紹介しました。
 実は、この発端は桑名市長による後見開始審判の申立でした。この事件の結末は、差戻審判において鑑定が行われ、認知症は軽度と認められ、補助相当とされました。補助開始の審判は、本人の同意が必要ですから、同意をせず、やっと解放されることになりました。
 この事件は、名古屋高裁の藤山雅行裁判長が担当し、かかりつけ医師が診断書において「自分の意思を伝えられる」と書いているにもかかわらず、鑑定を行わずに後見開始の審判を下した事を問題視し審判を取消し津家裁に差し戻したものです。余談ですが、この裁判官藤山雅行氏は、行政に厳しい判決を出すことで夙に有名な方でした。圏央道土地収用訴訟、小田急高架化訴訟などの判決はご存知の方も多いと思います。当時、東京地裁では民事3部に所属していたことから、「国破れて山河在り」という杜甫の詩になぞらえて、「国破れて3部あり」と謳われたと聞きます。残念ながら、藤山氏は今年4月に退官されました。
 前置きが長くなりましたが、本日ご紹介するデータは、この事件のような市町村長からの申立についてのものです。
例によって、「成年後見関係事件の概況」(最高裁事務総局家庭局)によりますと、市町村長からの申立は、平成29年度にはなんと、審判申立件数全体の19.8%に上っています。昭和38年に施行された老人福祉法が改正され平成12年に市町村長による請求が付与されました。平成12年成年後見制度発足当初は0.5%であったものが、年々増加し、17年間で件数は38件/年から7037件/年と19倍へ、シェアは40倍へと上昇しています。お気づきのように、総件数の伸びをはるかに上回るペースで増加しているため、シェアは件数の増加の倍のスピードで高まっていることがわかります。
市町村が老人福祉に関与することは、悪いことではありませんが、これまでにご報告したように ①オートマチック化 ②鑑定飛ばし(92%は鑑定無し) ③市町村長の申立 この3つが揃うと別の景色が見えてきます。
つまり、身寄りが少なく、お金がある65歳以上 の人は、事情をよく知らない市町村が、何らかの情報(うわさや讒言の可能性もあり得る)を基に後見開始の審判を申立て、家裁は鑑定を受けさせずに 2ヶ月程度の簡単な審議によって、 100%被後見人を作り出すという恐ろしい姿が見えてきます。悪名高い、かつての治安維持法ですら、送検者75,681人、起訴5,162人でした。たとえ、うわさや讒言で検挙されても起訴率は6.8%でしたが、後見開始審判は申し立てると取り下げはできず、ほぼ100%後見開始の審判が下されます。もちろん、治安維持法と当時の仕組みを美化するものではありません。運用を誤ると今の成年後見制度は、それ以上の危険性を秘めていると申し上げています。
 度々申し上げているように、成年被後見人となってしまいますと権利が大幅に制限され、医師免許・弁護士免許など国家資格は剥奪、取締役の欠格事由となり、一人では身の回りのこと以外できなくなってしまう立場に立たされます。先の名古屋高裁の例のように、被後見人となる必要もない人まで、一旦申し立てられますと、鑑定を経ることなく、ほぼ100%後見開始審判が下りますから、たまったものではありません。もちろん保護が本当に必要な方を市町村長が申し立てているケースも沢山あることでしょう。しかし不思議なことに制度が昭和38年にできて以来、37年間、ほとんど利用されていなかった市町村長の申立が、成年後見制度の開始を待って急拡大しているのです。これには成年後見制度と同時に高齢者福祉の両輪としてスタートした介護保険制度の普及に比べいっこうに拡大しない成年後見制度の普及に対する焦りのようなものを国、自治体、家裁が持っていることが背景にあるように感じます。
 下手をすれば、このメンツのために、必要のない人まで被後見人にされてしまうリスクが今の社会には存在しているように思います。ここにクレサラの一段落で、次なる獲物を求める専門家集団の熱い視線を感じるのは、小生だけでしょうか?1000万円以上の預金がある人は、希望する親族ではなく、高い確率で専門職後見人(弁護士、司法書士など)が選任され、その赤の他人が、本人の一生、流動資産(財布、預金通帳、年金など)の管理を行います。本人のお金は家族の生活も担っているケースが多いので、家族にとっても専門職後見人は神経をすり減らす存在となります。なぜ1000万円かというと最低それくらいの預金が無ければ後見人報酬が続かないので専門職後見人の成り手がいないからかもしれません。
いずれにしても、藤山裁判官がもう裁判所におられない以上、自衛策を考えておかなければなりません。
次回は、知らない間に後見開始の審判を申し立てられないための心構えと予防策、そして申し立てられた時の対応策についてお話したいと思います。