「家族信託はあなたが生きるための遺言」と言えるかもしれません。

 よく、「死んだ後のことは、自分には関係ないから、遺言を書くなんて面倒だ」という方を見かけます。
少々乱暴な言い分ですが、その気持ちがわからないでもありません。
しかしそういう方も、
遺言書に関心はなくても家族信託には関心を持って頂きたいと思います。
なぜなら、遺言は、亡くなる前に遺族やその他、遺産を承継する人たちへ遺す言葉だとしますと、家族信託契約書は、生きてる自分が意思能力を喪失する前に、自分自身の財産を本来の意思通りに使用できるようにしておくために、残す言葉だからです。

 新しい民法では、第3条の2という条文で「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と明文化しました。現在もそのように運用されていますが、明文で
意思無能力者の法律行為は無効とされることになります。
具体的には、預金が凍結される、不動産の売買ができない、取締役の欠格事由(成年被後見人、被保佐人)となるなど、できるのは、身の回りの物を買うようなことに制限されることになります。
意思能力を失った人が、ダマされて不要な買い物をしてしまうとか、自宅を売却してしまうリスクを予防するという趣旨です。
意思能力を失った人の人権という意味では、少々行き過ぎと思いますが、そうした方々の保護という目的が優先された格好です。そうなると、「老後の資金は貯めたので安心」「自宅を売却すれば、立派な老人ホームに入れるから安心」という本人の思いは実現できなくなる可能性があります。(後見人制度については別の機会にお話しいたします。)
またその子供たちの立場からすると、親のお金で対処できなくなった場合、自分のお金で老人ホームに入れるか、自宅で介護するかの選択を迫られるということになります。「自宅のローンや教育費が嵩む中、親の介護費用までは、難しい」となると自宅介護となります。これが介護休業・介護離職につながって行きます。
本人も家族も会社も大変なことになります。
折角、子供には迷惑かけたくないと資産を貯めてきたのに、「自分のために使えないために家族の負担となる」などという事態を招かないように、予め信頼できる家族に自分の財産の管理・処分を託す契約(家族信託)を残しておくことは自分と家族のために大切なことと言えるのではないでしょうか?
つまり遺言書は、家族その他のため、家族信託契約書は、自分のために「のこす言葉」と考えています。