後見とは、「能,狂言,歌舞伎,舞踊などで演技者の助けをする役」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)をいい、「顔を見せている後見もあるが,歌舞伎狂言の場合はたいてい黒衣である」(世界大百科事典 第2版)。後見人は英語では「a guardian」である。guardとは守衛、看守、見張り、監視(ジーニアス英和辞典)と辞書にあります。我が国の専門職後見人の実態は、素晴らしい名前とは異なり、英語の意味に近いように思います。
後見する人というのですから、後ろにいるのが、本来の姿ですが、専門職後見人の実態は、被後見人の前で門番然として立ちはだかっている姿が一般的です。家族との同居は認めず施設に押し込み本人の行動の自由を奪い、友人・家族との面接の自由を奪い、被後見人の身の回りの物を買うお金も与えない、そのような事例もあると聞きます。
時より報道される横領事件だけでなく、被後見人への暴力で処分(東京法務局2016.12.8)された専門職後見人もいますし、家族への暴言も多く報告されていて、誠に困ったものです。
年1回の家裁への報告以外何もしない、選任後被後見人にほとんど会うこともないという不作為事例もあります。
さらに困るのは、一度後見人を付けられると被後見人が死ぬまで付くという恐ろしい事実です。
しかも余程のことがない限り(民法846条)解任されません。後見人自身が辞任しない限り、同じ人物が後見を続けることになります。自宅の売却、購入、訴訟の提起、議決権の行使等そのことのために必要だから、申立したら、それだけでは済まずに一生後見人として、権限を振るいお金を管理し報酬を持っていかれることになります。わが国には、限定後見という制度はないのです。
報酬は毎月毎月被後見人の財産を一生削り続けます。
先ほど申し上げた限定目的で利用しようとして失敗した事例があります。認知症を発症した夫と施設に入って余生を旅行など楽しいことをしながら、過ごしたいと考えて、夫名義の自宅を売ろうとしたところ、後見人を付けないと売れないと言われ、売却ための役割のみを期待して、後見開始の審判を申立てたご夫婦がいました(東京の事例)。しかし大変なことになっていきます。売却は実現しなかったのみならず、夫の預金通帳、カード、年金など流動資産をすべて持ち去り管理されることになり、お願いしても生活費は月10万円しかよこさないから、介護で働けない奥さんの預金が底を尽く始末で楽しいはずの生活が悪夢に変わってしまいました。また大分の事例では、旅行が認知症に効くなら、それを証明した診断書を持ってこいなどと言われ、出してくれない、被後見人のお金では、美容院へ行くな、携帯は解約しろ、親戚への香典は領収書をもらってこいなど、罵詈雑言の数々を受けて苦しんでおられます。職業後見人の関心事は、被後見人の身上監護やその幸せではなく、自分の報酬が維持されるよう管理することにあるのではないかと疑いたくなります。
もちろん、立派に職務を果たしておられる後見人も沢山いらっしゃることも事実ですが、表面化しているだけでもあまりにも不良事例が多いことは、立派に職務を果たしておられる後見人の皆様にとっても残念で不幸なことです。
「a guardian」ではなく後見という素晴らしいネーミングでスタートした当初の理念に立ち返る明確な意思を家裁、専門職後見人となる方々及び関係各位は、取り戻して頂く必要があります。また、ユーザーの意見を受け止める新たな監視体制の整備が必要な時期に来ているのではないかと考えております。
そうした改善がなされるまでは、当事者は自衛するしかありません。安易に後見人選任を申し立てないように慎重な対応が必要です。預金が1000万円以上ある場合、専門職後見人が選任される可能性が高まります。任意後見契約、家族信託契約等、有効な対策もあります。
参考文献:長谷川学、宮内康二「成年後見制度の闇」飛鳥新社